猫おばさん

ド派手

昔、私のアルバイト先に奇妙な出で立ちのおばさんがいた。

そのおばさんは、普段から顔に京劇メイクを施している。

顔と首の色の境目が完全にセパレートされ、顔は白塗り、首は肌の色。

顔面のパーツは、ド派手なカラーを用いた赤と黒をベースに仕上げている。

だから、遠くからでも他人の目にとまる。

ヘアスタイルも金髪ショート。

爪は長く伸ばし、指には真っ赤なマニキュアをしている。

オシャレなのだろう。

肌身離さず重たそうなショッピングカート（車輪の付いた折り畳みできるバッグ）を引いている。

左手には終始、これまたド派手なハンドタオルを持っている。

陽気な人柄で、誰にでも話し掛けるタイプの人であった。

ショッピングカートの中身

ある時。

バイトが終わり、このド派手なおばさんと駅まで一緒に帰った事がある。

談笑しながら歩いていると私はふと、ずっと疑問だったハンドタオルとショッピングカートの中身を質問してみる事にした。

私「素敵なハンドタオルをいつも手に持っていますよね」

おばさん「あ～。このハンドタオルね。これは左手を隠しているの。子供の頃、親からの折檻で指を４本切り落とされて親指しかないの」と言い、ハンドタオルを右手に持ち替え、私に左手を見せてくれた。

左手の甲から４本の指がスパっと無く、確かに親指しかない。

私はとても驚き「親がですか？」とさらに質問した。

おばさんは「そうよ。痛かったよ～」と当時を思い出したのか、痛そうな表情をしてみせた。

そして、最大の謎であったショッピングカートの中身についてもたずねてみた。

「いつも持参されているショッピングカート、パンパン。中には何が入っているのですか？」

おばさん「ショッピングカートの中身？この中にはどっさりキャットフードを入れているの。野良猫ちゃんたちのために、バイト代の全てをキャットフードに注ぎ込んでいるのよ」

私「？？？」

自分のペットではなく、野良猫？と耳を疑った私は「ペットじゃなくて野良猫に･･･ですか？」とさらに質問をぶつける。

おばさん「ペットは飼うとなったらお世話が大変！だからペットなんか飼わないわよ！！野良猫で十分♡」

「私が餌を配るルートがあって決まった時間に通る道があるの。そうすると、そこの猫ちゃんたちは私の顔を覚えているから、毎日時間になるとみんな私の事を待っているの。これを雨の日も雪の日も嵐の日も！欠かさずやっているのよ。そうじゃないと猫ちゃんたちが飢え死にしちゃうでしょ」

「私になついているの。だから可愛くて仕方なくてねぇ～」

「他にも餌をあげている人がいて、その人たちとも横のつながりができるし、野良猫たちのおかげで餌やりは私の生き甲斐♬」

と目を輝かせ話してくれた。

私はその話を聞き･･･

“そういう生き甲斐もあるんだなぁ”と考えさせられる帰り道であった。